下垂体
下垂体
下垂体は脳の下にぶらさがるように存在しており、頭蓋骨の凹みのなか(トルコ鞍)におさまっています。大きさは1cm程度、重さも1g未満でとても小さな臓器です。
大きさはとても小さいのですが、その役割はとても重要です。下垂体は前葉と後葉の2つから構成されており、前葉からは6種類のホルモン、後葉からは2種類のホルモンが分泌されています。
前葉 | 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) 甲状腺刺激ホルモン(TSH) 成長ホルモン(GH) 卵胞刺激ホルモン(FSH) 黄体形成ホルモン(LH) 乳腺刺激ホルモン(プロラクチン) |
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後葉 | 抗利尿ホルモン(ADH) オキシトシン |
下垂体前葉は内分泌器官の中間管理職を担っており、下垂体前葉には上司と部下が存在します。上司が視床下部、部下が甲状腺や副腎などの体内にある内分泌臓器にあたります。部下の働き具合を見て、働きが足りなければ下垂体前葉から部下を刺激するホルモンを分泌して部下を刺激、逆に部下がオーバーワークの時には下垂体前葉からのホルモン分泌を抑えて部下のオーバーワークを抑制しています。ちなみに、この部下の働き具合のチェックをしているのが、下垂体前葉とその上司にあたる視床下部です。視床下部−下垂体前葉−体内にある内分泌臓器は切っても切れない関係になっているのです。これらの働き具合を私たちは血液検査のホルモン値で知ることができます。
一方で下垂体後葉は前葉と構造が違っており、下垂体後葉には視床下部から直接神経がのびてきています。下垂体後葉からは2種類のホルモンが分泌されていますが、今回は抗利尿ホルモン(ADH)の調整を例にお話します。抗利尿ホルモン(ADH)は名前のごとく尿量(尿の濃さ)を調整しているホルモンです。視床下部で血液の濃さを判定し、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌量を調整することで、腎臓からの出る尿量(尿の濃さ)が調整されています。例えば、夏場で暑いときに水分をとらなかったとします。体内は脱水となり、血液の濃度は濃くなります。このとき、体としてはなるべく水分を体内にとどめておきたいはずです。ではどうすればよいでしょうか。そう、抗利尿ホルモン(ADH)を分泌して尿量を濃くするのです。では逆に水分をとりすぎた場合は、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌は低下します。すると、腎臓はせっせと薄い尿を作ってくれます。わたしたちが体内の水分量を絶えず一定に保てているのは、このような調整が絶えず行われているからです。
下垂体からは多くのホルモンが分泌されており、病気も多種多様です。ここでは代表的な下垂体機能亢進症(下垂体ホルモン分泌が増加する病気)と、下垂体機能低下症(下垂体ホルモン分泌が低下する病気)についてお話します。
先端巨大症は、下垂体にできた良性の腫瘍から成長ホルモン過剰に分泌されることで生じる病気です。症状は顔つきや手足の大きさの変化が特徴的ですが、ゆっくり進行するため変化に気づきにくいです。頭痛や高血圧、糖尿病、いびき、関節痛、手の痺れなどの症状も出るので、これらの原因を調べている最中に病気がみつかることもあります。診断はMRIなどの画像診断と、血液検査でのホルモン値の測定で行います。治療は手術で腫瘍を取り除きます。しかし、なかには手術だけでは腫瘍を取り除けない場合もあり、その場合は薬物療法やガンマナイフ治療が検討されます。
この病気を理解するためには、まずクッシング症候群を理解する必要があります。副腎皮質から分泌されるコルチゾール(副腎皮質ステロイドホルモンの一種)の作用が過剰になることで、体重が増えたり、顔が丸くなったり、血糖値や血圧が高くなったりといった症状を引き起こす病気がクッシング症候群です。前述の下垂体の役割でもお話しましたが、コルチゾールの分泌は視床下部−下垂体前葉−副腎皮質の経路で調整されています。クッシング症候群のうち、下垂体前葉に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生する腫瘍ができることで、コルチゾールの分泌が増える病気をクッシング病と呼びます。診断はMRIなどの画像診断と、血液検査でのホルモン値の測定で行います。手術で腫瘍を取り除くことで治療をしますが、腫瘍の大きさが小さいことも多いため治療に難渋することもあります。
主な原因として、炎症や腫瘍、頭部外傷などがあげられます。また、最近では抗がん剤の副作用でも下垂体前葉機能低下症になることが知られています。症状は機能低下したホルモンによって様々で、基本的には原因となった病気の治療を行いながらホルモンの補充療法を行います。
下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(ADH)の分泌低下により起こります。この病気では、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が低下することにより、腎臓での尿の濃縮ができなくなり大量の薄い尿が出ます。そのため、トイレに頻繁に行くようになり、のどが乾くために冷たい水を大量にとるようになります。なお、正常であれば夜間は抗利尿ホルモン(ADH)の働きによりトイレに行くことはあまりありませんが、中枢性尿崩症の場合は尿意により夜間何度も目が覚めます。原因は腫瘍や術後後遺症、外傷などがあげられます。診断には原因の検索と中枢性尿崩症の確定診断のための特殊な検査を行います。治療は原因となった病気の治療を行い、必要あれば抗利尿ホルモン(ADH)と同じ働きをする口腔内崩壊錠(水なしで飲める薬)や点鼻スプレーで補充療法を行います。